本研究の目的は、近世イギリスにおいて近代的家族が世帯から分離する際の社会的条件を検出することにある。本年度は、3年間の研究期間の第一年目であるため、世帯と地域の職業構成に着目し、そのための史料の蒐集と分析方法の検討を行った。 史料の蒐集に際しては、あらかじめ分析結果の一般化を展望し地域類型を考慮した結果、近世の初めと終わりの時期に関してほぼ同規模の各1都市、二つの農業地域類型から各1農村地域を選択し、合計4地域の史料を蒐集した。具体的には、近世初めの住民台帳が利用可能なコベントリー市と近世末の住民台帳が利用可能なシュルーズベリ市という二つの都市とウィルトシャの牧畜地域およびケントの穀作地域という二つの農村地域である。この内、シュルーズベリ市の住民台帳に関してはその一部の教区について、職業つきの世帯データベースを作成した。 これらの史料を入手するため本年度は渡英したが、その間にケンブリッジ・グループの研究者と職業分析の方法に関して議論する機会があった。特に、世帯内の奉公人と世帯外の日雇いの関係に関して、彼我の見解に相違があることが判明した。これらの議論を踏まえ、住民台帳の職業の分析に関する分析視角の検討の成果の一部を学内紀要に公表した。 なお、本研究課題と密接に関連するテーマを扱った書評および辞典の分担項目も本年度公刊された。
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