本研究での課題のひとつは、1970年代以降日本企業の資金調達手段が拡大していく中で、経営行動にいかなる影響が現われたか、より端的に言えば、資本市場と企業との関係が経営行動に重大な変化をもたらしたかを考察することにある。20年度はこれに対して二つの観点から研究を進めた。まず一つは、資本市場との関わりも含め様々な面で日本企業に先行する米国企業について、当該時期の資本市場と企業の関係が経営行動にいかなる変化をもたらしたかを文献を中心に調査した。さらにこの問題との関連で、米国企業の経営行動に少なからず影響を与えたと考えられる米国の主要なビジネススクールでのマネジメント教育の内容とその趨勢の変化--財務数値指標重視の経緯やエージェンシー理論の台頭などを含む--についても目を向けた。これらの調査を通じて、米国企業の経営行動の変化には、資本市場からの圧力と経営者の行動指針自体の変容が影響要因として作用している可能性が明らかになった。それでは米国企業で生じたこのような変化ないしその予兆は、日本企業において観察されるかという問いが、第二の観点となる。少なくとも大量観察のレベルでは、日本企業の経営者が数値指標や株価の高低を強く意識するようになったのは1990年代以降のことで、80年代以前は顕著ではない。それが何に由来するのか、また、そのことが日本企業の戦略や経営行動そして成果にどのような影響を及ぼしたのかを解明することが、一方で高い国際競争力を称賛され、他方で戦略の欠如を指摘されるこの時期の日本企業の実態により接近するために必要であろう。これらをふまえて最終論稿をまとめていきたい。
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