患者中心医療で定評のある2病院に対するフィールド調査を実施し、患者中心の理念が制度として実現する歴史的プロセスに焦点を当てることで、医療組織の学習プロセスを分析した。両組織とも、設立においてキリスト教に基づく慈善活動的な理念をベースに医療行為が行われていた点で共通していた。しかし、第1の組織においては、設立後20年を経て、経営危機に陥っていたところを、院長の変革型リーダーシップによって乗り越え、その後に、事務長のリーダーシップによって経営体質を変革したという経緯が見られた。 これに対し、第2の組織では、伝統的に強い事務部門のリーダーシップの下で運営され、変革型の看護リーダーによって看護部門のパワーが高まった結果として、医師と看護、事務と看護の結びつきが強まったというプロセスが見られた。なお、この組織では、キリスト教に基づく理念は薄まり、歴代の部門リーダーの考えが総合して病院の理念として結実しているようであった。 これらの2つの事例研究から、患者中心医療を目指す医療組織の学習プロセスにおいて、医師、看護師、事務という3つの機能の連携が重要な役割を果たしていることが明らかになった。ただし、病院組織によって、異なる学習パターンが見られ、患者中心の理念を規定する核となる部門も異なっていると考えられる。ただし、どのような病院においても、「事務部門のリーダーシップが患者中心医療の学習において鍵となる働きをしている」ということを命題として提示できると考えられる。
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