医療専門家が職務に必要な顧客志向の価値観を獲得する過程を「経験」「サービス風土」「パーソナリティ」という点から明らかにするとともに、病院組織の学習プロセスを歴史的に分析した。 医療専門家としては病院に勤める看護師に焦点を当て、定量的な質問紙調査を実施した。看護師のキャリア段階を若手看護師(経験5年未満)、中堅看護師(経験6-10年)、ベテラン看護師(経験11年以上)に分けた上で、看護師の顧客志向と、過去の経験、獲得した知識・スキル、職場のサービス風土、パーソナリティの関係を多変量解析によって分析した。その結果、過去の経験の中では「患者に感謝された経験」が、知識・スキルに関しては「看護観」と「自己管理能力」の獲得が顧客志向とポジティブに関係していた。また、サービス風土よりも看護師のパーソナリティの方が顧客志向を強く規定していた。 次に、患者中心医療で定評のある2病院に対するフィールド調査を実施し、患者中心の理念が制度として実現する歴史的プロセスが分析した。その結果、医師、看護師、事務という3つの機能の連携が患者中心医療の形成において重要な役割を果たしていることが明らかになった。ただし、2つの病院組織では、異なる学習パターンが見られ、患者中心の理念を規定する核となる部門も異なっていた。また、いずれの病院においても、事務部門のリーダーシップが患者中心医療において鍵となる働きをしていた。
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