研究概要 |
企業のペイアウト政策に関する近年の文献を研究し,同時にわが国企業の事例研究の準備としてデータ収集を行った。文献研究の成果は,「ペイアウトと現金保有」として『証券アナリストジャーナル』に掲載された。1990年代のアメリカでは,配当を手厚く支払う企業とまったく支払わない企業の間で,配当の二極化が確認されている。配当の二極が生じた原因は,上場企業の間で,勝ち組と負け組みがはっきりしてきたためである。一部の企業が利益の大半を稼ぎ,配当の大半を支払っているのがアメリカの特徴である。理論的に新しい仮説として,配当のライフサイクル仮説や非システマティックリスク仮説が提示されている。ライフサイクルの初期にある企業は,成長機会が豊富であると同時に,非システマティックリスクが大きい。これらの企業は,配当支払いを見送り,現金保有を優先することが理にかなっている。一方,成熟企業は成長機会が少なくリスクも小さい。これらの企業は,手厚い配当を支払う。さらに,最近注目されている仮説に行動ファイナンスに基づくケータリング仮説がある。企業は市場のニーズに合わせた配当政策をとるという仮説である。これらの諸仮説が日本企業に当てはまるかどうかは,今後の研究課題になる。 わが国企業の配当政策をみると,配当性向や総還元性向を公表する企業やDOE(自己資本配当率)を目標に掲ける企業が増えている。配当性向や総還元性向は,典型的な業績連動型配当である。わが国で,いち早く業績連動型配当を打ち出した企業にマブチモータースがある。マブチモータースの事例研究を行うため,インタビュー調査をし,多くのデータ収集を行った。総還元性向を打ち出したのは,資生堂である。資生堂についてもインタビュー調査を行い,データ収集を行った。現在,両社の配当政策を事例研究としてまとめている最中である。
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