アントレプレナーシップ、リーダーシップ、役割、キャリア等に関する研究成果を踏まえ、アカデミック・アントレプレナーの活動測定のための質問票(日本語・英語版)を作成し、研究者を対象としたパイロット調査を実施した。事例研究については、アカデミック・アントレプレナーと彼らが関係している大学発ベンチャー(バイオ系の4社)にかかわるヒアリング調査を実施した。 上記の研究の結果、研究者のビジョンは、研究の基盤の確立とそこからのスピンオフの連鎖を期待する方向性、事業化による資金調達を期待する方向性、それらの同時実現はかろうとする方向性に類型化できた。研究者の役割については、経営面での人材不足から、彼らが経営活動に対して(オーバー)コミットする状況が発生してしまい、役割拡張や混乱にも直面しやすいことが明らかとなった。オーバーコミットメントは、パートナーとの間での適正な役割分業が行われることにより解消される場合や、ベンチャーの成長ステージの変化による関係者の分業パターンの変化によって解消される場合があることが明らかとなった。 また、理論的な側面においては、研究者の役割拡張や大学、研究者、ベンチャーの関係構築プロセスの課題が明らかとなり、それを正統化戦略のパラドックスという論点から論じることの有効性が示された。まず、アカデミック・スピンオフの創出過程とその後の関係形成において、大学ならびに研究者間での正統化戦略の違いが確認できた。次に、大学、ベンチャー、研究者それぞれの活動(正統化戦略)には、ダイナミックな相互作用が存在し、そのため、本来は、不確実性の対処の手段として行使された正統化戦略であったものが、かえって不確実性を内包して(増大させて)しまう状況が発生するというパラドックス状況が確認された。本研究ではこれをアカデミック・スピンオフにおける正統化の射程として指摘した。
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