本研究の目的は、日本のコーポレートガバナンス(特に出資者に適正なリターンを確保する監視メカニズム)の構造とその効率性を実証研究により明らかにすることにある。従来の日本のガバナンスの担い手であったメインバンクやグループ企業(ケイレツ)と、新たなガバナンスの担い手として期待されている株式市場に焦点を当てている。 まず、メインバンクやグループ企業による監視メカニズムの問題点を明らかにした論文“Corporate Restructuring in Japan:Who Monitors The Monitor"をJournal of Banking and Finance誌に掲載した。 非効率な経営を行っている企業の淘汰メカニズムとしては、M&A市場の役割が重要になるが、そのM&Aが株式市場による一時的なミスプライシングに強い影響を受けているとすれば、新たな非効率を引き起こす懸念がある。論文「M&Aにおける支払手段とプレミアム」では、株式市場のミスプライシングが、日本企業のM&Aの意思決定に影響を及ぼしてはおらず、むしろ効率的な企業が、非効率な企業を吸収し、株主価値を創出していることを示した。 企業経営者に対する株式市場を通した監視は、M&Aに比較して、低コストの株主行動(アクティビズム)の果たす役割も期待される。論文「アクティビズムは株主価値を増大するか?日本における株主提案の検証」では、アクティビストによる株主提案や、会社提案への反対活動は、株主全体の利益に一致しているが、そのことに対する個人株主の理解不足または無関心が、アクティビズムが成果を上げる上での障害となっていることを示した。
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