本研究課題の目的は、日系多国籍企業のローカルマネジャーのキャリア形成をネットワークの視点から捉え、そこから得られた知見を企業研修にも活かすことにある。日本人海外赴任者は帰任後に本国親会社の変革をもたらし得るが(齋藤、2008a)、他の現地法人との内部競争にさらされるなか(高橋・竹之内・齋藤、2007)、現地適応に必要な現地法人での知識の蓄積の重要性が高まるにつれて(竹之内、2008b)、ローカルマネジャーのキャリア形成問題は本人にとっても組織にとっても見逃せないイシューとなってきた(山田、2008)。昨年度から継続しているキャリアやソーシャルキャピタルに関する理論研究から、キャリア形成とフォーマルあるいはインフォーマルなネットワークの関連性が改めて明らかとなった。しかしながら、概念的に理解でき、それを示す事例も確認したものの、第2の目的である定量的な分析(ネットワーク分析)は現在まさに進行中である。19年10月の学会報告(高橋・竹之内・齋藤、2007)では、2次データからローカルマネジャーのネットワーク変数を分析に盛り込むことを試みたが限界があった。個人的なネットワークに関する調査への協力を得ることは困難だが、ロシアのソフトウェア会社のプログラマーを対象にしたアンケート調査(20年3月に質問票送付)、そして今夏から始まる日本企業のチームリーダーおよびメンバーを対象にしたリーダーシップ研修におけるアンケート調査を通じて、ネットワークと個人のキャリア、そしてネットワークと組織の有効性との関連性を検討していくことになる。
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