研究概要 |
本研究では、東日本旅客鉄道株式会社へのヒヤリング調査結果を参考に、同社の成長に貢献する技術経営(MOT)人材の採用ならびに育成の過程を考察した。JR東日本ならびにグループでは、ある程度長期的なスパンで人材を育成するという前提に立ち、年々社員数を減らす一方で、毎年1,400人程度を継続的に新規採用している。部門別にポテンシャル採用(転職者を含む)と称する枠で、鉄道事業配属者とは別に採用しており、かれらこそがMOT人材の候補者と位置づけられよう。各部門・分野は縦割り組織のため、非効率的であるかのようにみえるが、技術部門と企業経営部門・分野が混在しているため、意図せず、技術と企業経営の両方に精通する革新的・創造的・戦略的な企業・技術戦略を立てられるMOT人材が、日々の業務やOJTにより育っていく環境にあるといえる。 また、同社が、技術経営戦略に関するMOT教育実践企業として取り上げられているケースが見受けられる。それは同社が技術を核とするわが国を代表する鉄道企業であることからきているが、注目したいのはここにきて営業収益・利益を伸ばしている生活サービス事業でのMOT人材の育成の現状である。とくに駅スペース活用事業ならびにショッピング・オフィス事業の成長が目覚しい。その牽引役となっているのが、事業創造本部である。同本部の主たる業務は、事業の開発推進、資産管理、経営戦略であり、この部門こそがとくにマーケティング・マインドを有するMOT人材の活躍の場であり、その成果が顕在化しつつあるといえる。かれらは、常に顧客の限りないニーズや選択肢にさらされるとともに、新技術というシーズを用いた事業化に取り組まなければない状況におかれている。社内ベンチャー制度や人事交流・出向制度は、まさにマーケティング・マインドをもった人材の育成に役立っている。 ただ、いわゆるエリート集団ともいえるポテンシャル採用者に対する企業内研修制度としてのMOT教育を社内外でどこまで整備し、体系化できるかが今後の課題である。技術の長期的な趨勢を理解し、その中から事業化・産業化できる趨勢を選び出し、それを全体に経営戦略を立てられるような分析能力を向上させるMOT教育の機会を、社内にとどまらず社外に求めるべきである。 以上、本年度は、新卒に加え転職人材をもポテンシャル採用として受け入れているJR東日本の人事・処遇制度を取り上げ、日本的雇用慣行を色濃く残しながらも、組織風土として能力開発の有効化の実態を探った。ただ、同社の非正規労働者の存在と有効化については調査できなかった。次年度以降、わが国ならびに諸外国の非正規労働者とくに派遣労働者の人事・処遇の現状を探るとともに、非正規労働者との比較を中心にその課題と展望を探ることにしたい。また本年度、並行して流通業の非正規労働者の労働実態についても調査したが、その成果は次年度以降に整理したい。
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