研究概要 |
企業の質については,企業価値で測る方法と将来のキャッシュフローを割り引く資本コストの大小により測る方法があるが,後者は,久保田,徳永が慶応大学和田氏と,企業の期待収益率が情報効率的市場のランダムウオークに従うかを調べ,大企業を含むポートフォリオではそうであるが,小企業を含むポートフォリオでは正の相関が存在すること,一方個別銘柄については負の相関が見られることを発見した。小企業についてのこの傾向は強く,次年度の研究課題とする。企業の大小は,資本市場における情報の伝播の差異にも影響を与える。これを見るため,久保田,竹原は,ティックデータにより,私的情報による取引がどれだけ大きいかを識別するPIN変数の推定を行い,傾向が見られることを明らかにした。この成果は国際学会で発表し,学会賞を受賞している。また,経営者と株主の情報の非対称性の存在の元でのシグナリング均衡による解決の可能性と利益操作の可能性については,齋藤が久保田,竹原の共同研究で,国内の学会で発表した。営業からの純利益情報に対して,金融資産また海外子会社など時価評価により認識を行うその他の包括利益の株価関連性については,久保田,竹原が早稲田大学須田氏と共同研究し,久保田が米国カーネギーメロン大学セミナーにおいて発表した。純利益に加えて国際会計基準で開示が求められようとしているその他の包括利益の情報内容の性質が明らかになった。最後に,前者の企業価値について,企業の真の収益性を正しく測るため,負債の節税効果を切り離すことが重要であることから,トービンのqをそれが可能であるような形に分解するため,RBCモデルからスタートし,モデルの比較静学の結果と日本のデータが整合的である確認作業をした。カリブレーションによる展開は来年の研究課題であるが,当論文を発表した米国学会においてはコーポレートファイナンス最優秀賞論文を受賞した。
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