本年度は、談合について、各種の倫理および談合の文献の研究をした。企業倫理では、功利主義倫理と帰結主義倫理の共通点と相違点を研究した。そして、行為功利主義倫理の正義概念が今日の談合容認の「業界倫理」を解明する有効な手がかりとなることを認識した。また、今日の談合が江戸時代にまでさかのぼれることを証明するために、江戸時代の企業倫理思想を研究した。当時、「入札」制度があり、建前としては、競争があることになっていたが、同業者仲間がときには、談合をおこなったという文献があった。 また、中堅ゼネコンの元幹部とのインタビューによると談合は、必要悪であり、業界の日本的相互扶助のシステムであるということである。このような談合の擁護は、これまではの日本では通用してきたが、結局、税金の無駄遣いにつながるものであり、倫理意識の高くなった今日は国民の支持をえられないであろう。さらに、日本特有の談合の形態として、「官製談合」がある。通常、これは、定年を迎える役人の天下り先を確保する手段として、企業に「恩」(予定価格を知らせる)を与え、企業はその見返りとして、役人をむかい入れることを意味する。 しかし、いまや「業界談合」、「官製談合」、また、その国際版ともいうべき「国際カルテル」などの不公正な行為は、国内では公正取引委員会、また国際的には、たとえばEUの関係部門によって厳しく追及されるようになっている。また、リーニエンシー制度の導入により、わが国も欧米並みに、談合に参加しても、「自首」することにより、課徴金などをまぬかれることが可能になった。日本的企業倫理のシンボルとしての「談合」は、消滅への道を歩み始めたといえよう。
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