本研究の「研究の目的」に従って、株式所有構造の違いによって、企業の業績にどんな影響が及ぶのかを吟味するに当たって、その企業評価の指標が多様に用いられるようになってきた。そこで、新たに用いられるようになってきた企業評価法も含め、ひとまず機能別・対象別や目的・時点(ないし期間)別等に整理したうえで考察を深めることにした。その成果が「M&Aと企業評価」(『経営分析と企業評価』小松章編著(2009年4月)中央経済社発行の第4章所収のとくに前半分)で要約して発表したものである。さらに、それら各評価法の中でも、経営学とくに経営財務論・会計学分野ほかで、よく取り上げられるM&A(合併・買収)の際に、被買収企業を評価する要因(特性)は何かを見出すというテーマに即し、株式所有構造をあらわす("浮動株比率"・"少数特定者持ち株比率"等)諸比率をも説明変数として、それぞれの統計的有意性を調査した。その研究結果によれば、わが国上場企業で被買収のサンプルを判別分析・ロジット分析モデルによって調査した結果によれば、ROAや総資産対数変換値と並んで、"少数特定者持ち株比率"といった株式所有構造を表わす比率も、統計的に有意な説明変数の一つとして、クローズアップすべきことが判明した。ただし、浮動株比率といった、株式所有構造を示す他の比率や、PBR・流動性・レバレッヂ係数その他の企業評価指標は、統計的に有意であるという結果は得られなかった。
|