CSR推進はグローバルな動きであるが、途上国におけるCSRに関しては、国際的に賛否両論の意見が鋭く対立している。しかし途上国一カ国のCSRを詳細に研究したものは未だない。CSRは途上国の発展に本当に役立つのか。その中で日系企業はどうCSRを行っていくのか。本研究は、フィリピンに焦点を絞り、比国内で様々な企業によって行われているCSRについてミクロの事例研究を行い、それにマクロの比較資本主義的考察を加え、最終的にはグローバルガバナンスの文脈の中で考察を行った。 本研究から、米国資本主義の影響を強く受け、かつ超格差社会が何世紀にもわたって続いているフィリピン資本主義の中では、CSRが大きな文化的、また政治経済的装置としての意味を持つことが明確になった。また一国規模で見ると、フィリピン政府が期待するほどCSRは開発には役立っておらず、本来あるべき国家と国民の信頼関係を阻むことさえもある。また、欧米多国籍企業に比べて、現地の知識人材をうまく活用できていない日系多国籍企業が多く、なかなか有効なCSRプログラムが作れない問題が明らかになった。 H19年度は、H18年度に集められたフィリピンにおける大量のフィールドデータと日系企業の問題についての整理と報告が主な活動となった。そのために、フィリピンのアジア経営大学院との関係を維持するとともに、EUのCSR関連会議等に参加し理論的整理をおこない、欧及び米の国際学会で5本の発表をし、英文論文や本の章を作成した。また、この分野でトップクラスと認められている欧米研究者とのネットワークの構築につとめ、協力関係の基盤作りを行った。
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