本研究は、サービス産業における組織能力としてのCRM(Customer Relationship Management)と市場戦略としてのCRMに焦点を当て、CRM能力、戦略、および成果の関係を理論的・実証的に明らかにすることを目的とした。 これらの点を明らかにするために、本研究ではまず、文献レビューを通じてプロセスとしてのCRMと戦略としてのCRMに類型化し、CRMには市場マネジメントと組織マネジメントの2つの局面があることの理論的、実践的な重要性を指摘した。その成果は、「組織能力としてのCRM」として『マーケティング・ジャーナル』(第27巻第3号、2008年1月)に公刊されている。 次に上記で考察された点を実証的に検討するために、CRMの先端的事例であるカルチュア・コンビニエンスクラブ、コープさっぽろ、スルガ銀行を対象としてCRMの構造と成果を考察した。その分析から以下の点が解明された。 (1) カルチュア・コンビニエンス・クラブは、膨大な顧客データベースに基づいてマス・カスタマイズされた顧客戦略を実践し、それが高い収益につながっている。 (2) コープさっぽろはPOSデータを仕入先である卸売業者やメーカーに開示することにより、顧客ニーズに適合したマーチャンダイジング政策を実施し、高い収益性をもたらしている。 (3) スルガ銀行は、さまざまな顧客接点から生じる顧客・取引情報を一元的に管理し、顧客ニーズに応じた金融商品を開発することによって、高い顧客満足を引き出し、長期継続的な顧客関係を構築している。 今後の研究課題は、これらの研究成果を踏まえ、CRMによる顧客との長期的な関係維持の様式をリレーションシップ・マーケティングの枠組みの中で解明することにある。
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