管理会計とリスクマネジメントの統合について、(1)先行事例について文献サーベイを継続するととともに、(2)製造業企業において行ったフィールド調査結果をまとめ、(3)地域金融機関における管理会計とリスクマネジメントの統合にむけた実践についての聞き取り調査を行った。具体的には、(1)先行事例に関する文献サーベイでは、戦略管理会計とリスクマネジメントの展開について、とくに経営理念の役割に焦点をあてて、検討を行い、賢慮(Phronesis)による統合という概念が近年戦略論のなか提示されてきており、それを鍵概念として実践レベルにおける戦略管理会計とリスクマネジメントの融合を整理する見通しを得た。(2)製造業企業におけるフィールド調査では、京セラにおける調査結果をまとめ、経営理念の実践への浸透が、現場レベルでの戦略とリスクマネジメントの弁証法的融合へと展開されていることを明らかにした。つまり、外部環境の変化に適応して現場レベルで戦略を展開していくための管理会計的な仕組みとしてアメーバと呼ばれる自律的小組織と時間当たり採算を基盤とした将来志向的な自己管理が組み合わされている。この仕組みを動かすうえで、経営理念が組織末端にまで浸透しているのであるが、経営理念自体が戦略的積極性を鼓舞する理念と組織安定性を重視する理念を内包しているため、現場レベルでの実践活動でそれらの理念のバランスが実現されていることが明らかとなった。トップダウンでのリスクマネジメントと戦略管理会計の融合という理解では捉えきれない、分散的な賢慮による実践を通じたリスクマネジメントと戦略管理会計の融合をみることができる。(3)地域金融機関における戦略管理会計とリスクマネジメントの統合に向けた実践については京都信用金庫の全面的な協力を得て集中的な聞き取り調査を行った。
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