本年度は、特定業種の事業リスクは一定であると仮定した上で、有価証券報告書で各社が開示しているリスク情報に基づき各社のリスク要因とそれに対する株価感応度を推定した。その際、業界内でもリスク要因としてあげられている要因が異なる理由を、リスク管理、事業多角化、国際化の程度によって説明できると仮定した上で、過去のリスク管理活動の程度をベンチマークとして、それを変更させた場合どの程度企業価値は変動するかについてのシミュレーションを実施した。サンプルとして、化学業界を対象とした。これに基づき、業種内のリスク管理程度の相対的地位に基づいてこの結果、研究目的に記載したとおり、リスク管理活動の程度は価値向上に貢献することが明らかになった。リスク管理に関する研究成果は、いわゆるJ-SOX法の施行を前に一挙に増大したが、こうした研究成果の妥当性を補強したと考えられる。これに加え、残余利益モデルのインプットの更新と、上記で推定したリスク管理活動の程度とアナリスト予想の分散との関係を調査した。両者の関係は先行研究で調査されておらず、本研究の特徴でもあるが、化学業界のサンプルにおいては統計的に有意な関係性は見いだせていないが、リスク管理と内在割引率との間には一定の関係を見いだすことが出来ている。これらの結果は、本年度決算から求められるリスク管理実態の有価証券報告書での記載を受けた証券市場での反応に関する分析を実施し、両者を複合させた形で結果を公表する。 副次的にオフバランスの事業リスク管理との関係で、リース情報を利用した株式リターン研究を実施し、こちらについてはリターンに反映されていないという結果を得て、概要に関しては論文として済みである。
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