研究概要 |
本研究の目的は、『会計発生高は戦略にしたがうか』、すなわち、企業戦略によって会計発生高がシステマティックな影響を受けるか否かについて、経済理論モデルを用いて明らかにするとともに、財務データを用いて理論モデルから導かれる仮説が正しいか検証することである。まず、『会計発生高は戦略にしたがう』という予測について、1)市場シェアを追求する成長戦略と、2)利益率を追求するコスト削減戦略の2つの戦略に注目して、基本的なモデル分析を行った。次に、モデル分析の結果を受けて実証研究に着手した。しかしながら、モデルの中で展開される企業の戦略転換点を特定することが困難であること、およびモデルが前提とする条件が未確認であることという問題点に直面したことから、まずは将来キャッシュフローの予測に会計発生高を用いる場合に企業戦略がどのように関わってくるのかについて明らかにした。わが国の企業財務データ(日経Financial Questにより入手)を用いて調査・検証を行った結果、企業の将来キャッシュフローを会計発生高の構成要素を用いて予測する際には、成長戦略およびコスト削減戦略といった企業戦略を考慮することが有用であることを示唆する結果が得られた。この結果について、2007年1月初旬にマレーシア・ペナン島で開催された、第2回Journal of Contemporary Accounting and Economics SYMPOSIUMで報告を行った。報告終了後には、世界各国より参加されたフロアの各先生から多くの貴重なコメントを頂き非常に有益であった。改善すべき点が未だ多く残っていることから、Journalに投稿することは控え、ワーキングペーパー(Nobuhiro Asano, Yutaro Murakami, and Atsushi Shtiba(2007)"Does Firm Strategy Have Systematic Effects in Predicting Future Cash Flows?)とした。 このように、平成18年度に実施した研究によって、当初構築した経済モデルの問題点が明確化するとともに、本研究を遂行する上で最も重要な鍵となる戦略転換点の特定化が可能となった。次年度においては、このような点を踏まえ、引き続き研究を推し進めることにしたい。
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