研究概要 |
本研究は、確定決算主義が採用されている日本において会計利益と課税所得の差(BTD)がいかなる情報を提供しうるのかを理論的に検討し、この差が持つ情報の有用性について実証研究を通じて明らかにするものである。本年度は、(1)日本におけるBTDの傾向とその決定要因および(2)BTDと利益の持続性との関連性についての研究を行った。 (1)では、BTDを測定(推定)する方法として、(1)税効果会計により算出される法人税等調整額を用いる方法、(2)会計利益と実際の申告所得との差異を直接的に計算する方法、および(3)課税所得を納税額から推定した上で会計利益との差異を計算する方法をとりあげ、それぞれのBTDの年次動向などを詳細に分析することにより、日本企業のBTDが平均的に負であること、また3つの方法によって測定されるBTDが概して同じような傾向を示していること等を明らかにした。さらに日本企業で正のBTDが生じる理由および3つのBTD指標の間に乖離が生じる理由も検討した。最後に3つのBTDの決定要因について多変量分析を行い、BTDが単に制度的要因のみ生じるのではなく、ガバナンス要因やノイズ要因等によっても生じることを明らかにした。 また(2)では上記(2)の方法を対象とし、調査年度の拡大や業種別分析の追加により先行研究を発展させた。その結果、BTDが利益等の持続性低下の指標として有用であること、業種別に若干傾向が異なること等が明らかになった。さらにノンパラメトリック手法である決定木モデルをこの問題に適用し、BTDの規模がどの程度大きくなった場合に持続性低下の危険信号となるのかを示す方法を提案した。来年度は、(2)についてより発展させていくとともに、2006年の申告所得情報の公示制度廃止に伴い(2)の測定方法が利用できなくなるので,これまでの研究成果を基礎としてより良い課税所得推定モデルを構築していきたいと考えている。
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