本研究テーマは、従来の年金会計基準の枠組みを集団投資スキームという概念にもとづいて再構築する、という新たな観点から接近され、下記に記すとおりいくつか具体的な成果を公表し、同時に理論上の展開をいくつか明らかにすることができた。 それはつぎの点である。 (1) 従来の国内外の年金会計基準を基本的な概念と会計の考えかたの妥当性について疑問を呈して、新たな概念と考えかたを提示したこと。これは国際会計基準の公開草案の検討を通じて拠出ベース約定の概念が企業年金制度の新たなとらえ方となる点について、同公開草案の詳細な検討をおこない、そのもつ意義について明らかにした。 (2) 従来の会計基準が、既存の年金制度の特性をどのように考えて、会計処理のあり方を示してきた論理を検討し、それは年金制度の特性を十分に反映するものではなかったこと。年金基金を集団投資スキームの観点からみることは、年金制度を従業員福祉の観点からみるだけでなく、プール化された資産-年金資産-の運用をめぐるマネジメントと責任という観点から接近することでもある。それは、他の資金運用をめぐる問題と共通する側面を有している、という点に焦点をあてることでもある。 (3) 年金制度のあらたな側面を明らかにして、それに適応する会計基準のあり方について国際財務報告基準の動向をふまえて提示したこと。これは上記の(1) でもふれた国際会計基準の公開草案のなかに、新たな方向をみることができるが、同時に年金会計基準のフレームワークが、たんに年金会計そのものだけでなく、年金基金のガバナンスにも深くかかわっていることをも意味している。すなわち、年金基金の自律的なガバナンスのあり方が、連結会計との関連において重要な論点となっている。
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