研究概要 |
本研究の目的は,予測価値の観点から業績指標としての純利益と包括利益の比較を行うことにある。本研究で検討の対象とするのは,現在国際会計基準審議会がその「財務諸表の表示プロジェクト」において導入を図っている包括利益と,(国際会計基準審議会がその廃止を目標としている)実現概念に基づいて計算された純利益,そして包括利益と純利益の差額である「その他包括利益」である。本研究では,投資家が投資対象としての企業の本源的価値を推定するためにもっとも適した業績指標は何か,という観点から純利益と包括利益の比較を行う。本年度は昨年度の成果を踏まえ,さらにモデルを複雑化し,より現実に接近したシミュレーション分析を行った。 本年度もシミュレーションに際して業績指標の有用性の測度としてそれぞれの業績指標(純利益・包括利益)が持つ予測価値をもちいた。純利益と包括利益の予測能力について比較を行うために,企業の将来キャッシュフローをランダムに生成し,そこから計算される純利益と包括利益の性質について両者の予測可能性について比較を行った。次に,純利益と(国際会計基準審議会が支持する)包括利益,さらにリサイクルを行わない「疑似純利益」を比較するために,上記のモデルに金融資産を導入した。本年度は,リサイクルの有無により業績指標の有用性が影響されるか否かを検証するために,シミュレーションにおいて,純利益・包括利益・「疑似純利益」の比較を,有価証券の売却をモデルに織り込んだモデルによるシミュレーションをもちいて行った。 その結果,将来の業績予測について,純利益が他の2指標よりも予測しやすいことを確認した。この結果は,投資家にとって,純利益の有用性が他より高いことを意味する。すなわち,投資意思決定有用性の観点から,国際会計基準審議会が主張するような,純利益を廃止して包括利益(および「疑似純利益」)を表示することは正当化できないという事実が明らかとなった。
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