本研究の目的は、会計規制による企業透明性の向上が、企業の組織戦略とコーポレートガバナンスの設計にどのように機能しているかを明らかにすることである。本年度では、監査人による財務諸表の品質保証が、市場の価格形成メカニズムに及ぼす影響を調査した。2000年1月から2004年12月までに東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所、札幌証券取引所、福岡証券取引所、JASDAQに株式公開した639社を調査した結果、新規公開時に、監査法人の規模に応じて、市場がアクルーアルをプライシングしていることを新たに発見した。本研究の実証結果によれば、高アクルーアルのIPO企業に対して大規模な監査法人の監査は一定の信頼性を与えている。これは、lPO企業が大規模な監査法人を選好する証左の一つでもある。中小監査法人による公開前の監査意見は、将来収益性が低いことを市場に伝達するという点で有用である。ただし、中小監査法人のIPO企業が過度に保守的(攻撃的)な利益報告をすることに対しては、市場はその過度な報告額を調整している。IPO市場の価格形成に関しては、財務報告の信頼性が監査人によって保証されるというメカニズムがおおむね機能している。コーポレートガバナンスの観点からは、公認会計士監査は経営者の規律付けにや虚偽報告の抑制に有効である。本研究の意義は、経営者の監査法人の選択メカニズムと企業価値評価の関連性を明らかにした点である。財務報告の品質水準は、市場の価格形成、企業の透明性、市場の参入条件に影響するので、会計規制の設定の観点からも重要である。
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