戦後日本の家業経営について戦前からの連続性と変化を社会学的に検討することが課題であった。事例研究として瀬戸内海の塩田地主にとっての「家」と家業経営の変容過程を追ってきたが、戦後社会にあって、技術革新と地縁・血縁ネットワークのあり方が重要な鍵を握っていたことを浮き彫りにし、もう一方で進めてきたファミリービジネス研究との接点が整理された。家業経営は、多角化した大規模な事業体の場合必ずしも一地域に限定・固定されるものではないが、拠点を置く場所のネットワークは生き残りにとって重要な意味を持っていた。技術革新については機械化等により存続を可能にした企業もあれば、他方で、伝来の方法を守ることでそれをブランド化し、生き残っている事業もある。たとえば、醤油醸造業に着目した場合、機械化してグローバル化していく事業体と、各地で伝統的な醤油樽で醸造する製法にこだわる事業体がある。こうした複数の存続戦略を射程に含んだことで多様性と重層性が明らかになった。
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