本年度は、19世紀半ばから20世紀前半にかけての探偵小説、とくにエドガー・アラン・ポー及びアガサ・クリスティとその作品にかんする調査を中心に研究を進めた。ポーに関してはヴォルテールの『ザディグ』との不連続性を考慮しつつ、『モルグ街の殺人』に関して英国ロンドンで文献学的な資料調査を行ない、『マリー・ロジェの謎』に関しては、米国ニューヨーク・パブリック・ライブラリーで文献資料の調査及びニュージャージー州ホーボーケン等でモデルとなったメアリー・ロジャーズ事件に関する調査を行った。クリスティについては、出身地の英国トーキーを中心に彼女の文学的なテクストの下地となった社会空間の特性に関する調査を行なった。 日本の作家では、横溝正史に関して、第2次大戦中の疎開時代の状況や、最初の本格探偵小説である『本陣殺人事件』や『獄門島』、またクリスティや坂口安吾の影響を受けた『八つ墓村』などのテクストについて、それらの言説が成立してくる下地としての歴史的事実やテクストに関する調査研究を行なった。 さらに、構造的には同じ「都市現象」として、探偵小説とほぼ同時期に発生したアメリカの大衆消費文化のひとつであるベースボールに関して、文献学的な資料調査を進め、両者が大都市ニューヨークの覇権形成とともに発生し、その人気を広げていくことから、構造的な比較分析の視点を設ける作業を行った。 研究成果としては、平成19年2月3日の現代社会研究会において《Sociological Remarks on The Murders In The Rue Morgue by Edgar Allan Poe》という研究発表を行った。これは本研究の方法論的な枠組を批判的に吟味しつつ、ポーの『モルグ街の殺人』がどのような文学的テクストや思考の様式を下地にして成立したのかを社会学的に検討したものである。
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