本年度は、国内のNPOのあり方において重要と考えられる、(1)国内における「社会的企業論」の論調、(2)「新しい公共」施策の下での自治体とNPOとの「協働」施策の変容をふまえて、平成19年度と平成20年度にロンドンのタワーハムレッツ区にて実施した現地調査による資料を検討した結果、下記の点が明らかになった。(1)地域レベルのボランタリー団体のあり方に影響を与えている条件として、国民健康サービス(NHS)改革による医療・保健の地域化と、自治体が政策を実施する上でその達成目標等に関して政府と合意を行うLocal Area Agreementがあること。(2)(1)によって、地域レベルのボランタリー団体は、従来通り小地域別のニーズに柔軟に対応する一方で、公共サービスとして品質管理(標準化、効率化)されたサービスを提供することが求められるようになっていること。(3)ボランタリー団体に対する政府・自治体の期待は公共サービスの供給主体となることであるが、同時に、資金提供者としての政府・自治体の役割や地域の意思決定過程に対するボランタリー団体の参加等をふまえた対応がされていること。 これらの研究の意義・重要性は、以下の通りである。(1)日英においてボランタリー団体に対して効率的なサービス提供を求める趨勢が共通しているように見えるが、その制度的・社会的条件は大きく異なり、それをふまえた上で慎重に「社会的企業」「社会起業家」等の議論を行う必要があることを明らかにした点。(2)(1)の知見を、社会学における都市コミュニティ研究をベースに、非営利組織論・行政学・公共経営学のアプローチによる多面的な実証分析によって導き出した点。
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