昨年度の面・邑単位のリーダー層等への聴き取り調査によって明らかになったのは、今回の扶安郡における放射性廃棄物処理場建設という問題を解決するプロセスで着目すべきは韓国において弱いと考えられていた地域社会の側のイニシアティブの強さであった。 本年度は昨年度に引き続いて邑・面単位の各種リーダー層、特に(複数の)面単位で選出されている群議会議員に詳細な聴き取り調査を行うことによって、このイニシアティブを生み出しているのが、市民的諸関係(橋渡し型ソーシャル・キャピタルbridging social capital)と共同体的諸関係(結束型のソーシャル・キャピタルbonding social capital)の協調・妥協・折り合い・対立関係であること、このイニシアティブは、後者の伝統的諸関係-従来は重視されてこなかった既存の秩序構造を支えてきた日常的社会関係-によって一定程度、規定されていることを明確にすることができた。また、さらに、この規定性は地区単位(面・邑単位)で偏差を持つこと、そしてその偏差はそれぞれの地区における階層構成、またその階層を基盤にした諸アクター間の布置連関よって異なることも明らかにした。 本調査結果は、日本事例の検討から明らかとなった「新しい政治文化」型と「地方」の「文法」を規定する「(新しい政治文化と伝統的諸関係)折り合い型文化」の並行存立・共存関係との共通性を強く示唆するものとなったが、本分析は共時的分析にとどまっており、例えばその歴史的経路性の相違点について等の検討=通時的分析が課題として残された。
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