本年度は、戦後日本社会における社会構造の変化や経営者文化の特色について、次の各事項を検討した。 1.戦後の財界誌や経済雑誌の記事を収集し、記事の内容を検討した。そこから、戦前の実業家文化と通じるハイカルチャー志向が、戦後経済人の文化的な志向の一要素として存在することを確認した。また、そうした志向とともに、その後の時代のサラリーマン文化にやや近い大衆的な要素が存在することも同時に確認した。さらに、そうした志向は、のちの企業メセナのコンセプトや方向性と密接につながっている点も確認した。 2.昭和30年代に日本の代表的企業経営者たちが形成したトップ・マネジメント視察団によるアメリカ視察報告書のいくつかを検討した。そして、彼らが、アメリカにおける経営者の「科学的」な経営手法や「ヒューマン・リレーションズ」の手法に感心しながらも、戦前日本に見られた精神主義的な経営態度の類似物に共感している点を確認した。 3.戦後の経営者文化の方向性は、内面的な領域に限れば意外に戦前のそれと大きく隔たったものではない点を確認した。ただし、かつて村上泰亮らが指摘した戦後の新中間大衆現象に、それは大きな影響を受けていたのではないかと推察した。すなわち、戦前の実業家文化が企業経営にもとづく膨大な個人資産の蓄積を背景としていたのとは異なり、戦後の経営者文化は、サラリーマンとしての個人資産や心理面における組織からの脱依存傾向を背景としていた点について考察した。
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