本年度はまず国内において、熊本大学附属図書館医学系分館や九州大学附属図書館医学分館などに所蔵されている医学雑誌論文、国立国会図書館に所蔵されているアメリカ合衆国議会記録と議会レポートなどを収集した。しかしながら、それだけでは十分ではないため、アメリカ合衆国国立議会図書館に所蔵されていて、日本にはない議会記録と議会レポートならびに各種雑誌論文、アメリカ合衆国国立衛生研究所附属医学図書館に所蔵されていて、日本にはない医学雑誌論文なども現地で収集・分析することにより、アメリカ合衆国における薬物政策の歴史的経過を一次資料にもとづき、できるだけその発端に近づく形で考察した。また同時に、アメリカ合衆国の代表的な薬物政策研究者(医学史、歴史学、社会学)の数名と意見交換をおこなうとともに、彼らにたいしてこれまでの日本の薬物政策研究について報告し今後の研究協力体制を確認した。資料の分析によりあきらかにされたことは以下の概略の通りである。従来は薬物の問題性が医学的に発見されたがゆえに統制や禁止などの薬物政策がおこなわれたとかんがえられてきたが、それにたいして、人種的対立にもとづき有色人種の使用する薬物についてとくに問題とされたこと、医学論文などにおいてさえとくに有色人種と薬物との関係が問題視されていたこと、などがわかった。たとえばコカインは、当時大衆的に人気を博しておりワインや清涼飲料などに利用されていたものの、南部でのアフリカ系アメリカ人による使用により問題視された。あるいはアヘン系薬物の場合、中国移民による使用が問題視された。これらの点は、アメリカ合衆国の特殊な状況ともかんがえられるかもしれないが、今後のイギリスやオランダとの比較を通じてその意味をあきらかにする必要があるとかんがえられる。
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