本研究の目的は、日本・イギリス・アメリカ合衆国・オランダの薬物政策を比較して各国の政策の共通点と相違点を明らかにするとともに、その成立過程を比較社会学的に分析することにより、それら共通点と相違点がどのような背景と要因から生じたものであるのか、それが何を意味しているのかを明らかにすることにある。本年度は前年度の研究成果を発表するとともに、前年度が主として日本とアメリカ合衆国についての資料収集と分析であったのに対し、オランダとイギリスについての資料収集と分析を行った。そこで導き出された洞察は以下の通りである。 1.イギリスの薬物政策は、1920年の危険薬物法制定によって犯罪化政策を志向したものの、保健省委員会の答申によって嗜癖者を患者として扱う医療化政策を採用した。この政策の意義は通常は医療化と考えられるものの、それだけにとどまらない社会学的意義を有する。 2.現在のイギリスの薬物政策は1971年の薬物乱用法の制定以降、犯罪化政策を中心に編成されているものの、内務省の免許交付によって精神医療センターの医師による薬物処方が継続されており、またこんにちではナーマライゼーションの考え方が見られる。 3.オランダの薬物政策は1919年のオランダ阿片法により、犯罪化政策掲げたものの、実際の執行は選択的であった。 4.現行のオランダの薬物政策は、1968年設置の委員会答申にもとづく1976年の改正オランダ阿片法により、ソフトドラッグとハードドラッグを分離した二軌道政策と呼ばれる特徴的な政策を採用している。そこにはこんにちでいうハームリダクションの考え方に基礎が典型的にあらわれている。 次年度はこれらを総合的に分析するとともに、とくに薬物政策の共通性と相異を作り出した国際的な薬物統制の経緯を検討することが必要であると考えられる。
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