1.1940〜60年代における生活研究の展開について:(1)第二次大戦後の生活再建、社会保障制度の導入という時代的な課題を背景に、家計費や最低生活費算定に関する研究が数多く蓄積された。(2)他方では都市社会学が成立し、生活様式、生活構造という概念設定によって都市生活を理論的に把握する試みがなされた。(3)磯村英一の調査・研究は都市の貧困層をトータルに把握し、生活問題の実相を明らかにする点で大きな影響を与え、生成期生活研究と最も類似度が高い。しかし、生活構造や生活問題と社会構造との関連を分析する方法や理論は明示されていない。(4)新明正道らの釜石調査は、地域社会という枠組みと媒介過程を明確に意識化した点で際立っている。ただし、ここでの媒介過程は、人々の意思決定-政治過程と解釈される。(5)この時期、生活研究は多方面で展開されているが、研究上の交流は見られず、生活研究、生活構造論として概念や理論が深められるには至っていない。 2.大原總一郎の社会理念について:大原總一郎が制定した(株)クラレの社訓には、「事業共同体の精華を高揚し、産業の新階梯を創成して国家社会に奉仕する」とした、事業共同体という概念がみられる。「事業共同体とは、事業を中心に集まった人達が、単に利害の打算に基づいて手をつないでいるだけでなく、人格の尊重と個人の自律を基調とした、より高い有機的一体感をもって結ばれた人達の集合体でなければならないという意味である。」總一郎は、「工場が労働者と資本家との共同作業場」となって現れることを期待した孫三郎の「人格主義」を踏襲しつつ、事業共同体の国家枠を超えた国際社会での社会的責任を明確化、企業のあり方を人類の福祉に貢献するものでありたいとし、孫三郎の社会、経営理念をさらに一層進化させている。
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