1. 生活構造論における地域の認識について(1)生活構造論の分析枠組における問題点として、地域社会に対する視点の欠落が挙げられる。北海道大学時代の籠山京の研究は生活問題と地域社会との関連を経験的に分析しようと試みた数少ない例である。結果として、「高度成長の展開・屈折」と貧困層の蓄積との関係や都市への人口移動による「貧困蓄積地域の転換」等が明らかにされた。(2)その背景には、北海道大学教育学部の学部構想が大きな影響を与えていると思われる。道民生活の向上と発展に資する科学的研究と教育計画の設計を目標として、共同研究プロジェクトや道からの委託調査等が数多く行われており、籠山はその中心メンバーであった。(3)その成果の一つが、「北海道生活文化圏の研究」である。しかし、その地域類型はほとんど産業別人口によるもので、その後の展開も見られなかった。(4)生活問題・生活構造と地域社会との関連を分析するためには、各地域社会と住民の生活実態に関する包括的なデータが必要であるとともに、地域相互の比較分析の視点が不可欠である。都市社会学において、近年、都市の類型の議論は少ないが、新たな視点からの類型化が必要であると思われる。 2. 大原父子の経営理念には、大原家より継承された「同心戮力」、「謙受」の精神が貫かれている。孫三郎は「与えられたる知識と天職に依り神に仕えん」、と鼓舞するような覚醒の時期が到来、自発的にあらゆる事業に邁進していく。孫三郎の行動は非常に直裁的である。しかし総一郎には、「総一郎のエートス」とも言うべき深遠なる動機付けが、彼のいう「事業共同体」の経営活動に影響を及ぼし、実践的に現れている。総一郎はウェーバーを精読しており、彼の行動を表現するのに最も近い分析がウェーバーだったのではないだろうか。総一郎の音楽活動における随筆には「音楽のエートス」が溢れており、事業共同体の精華とはエートスに他ならない。
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