日本文化における「間」の文化=「不足主義」の文化と、関係やあいだに着目する社会学的知見=中井正一の美学、マクルーハンのメディアの法則論、ミルズの社会学的想像力論、ケネス・バークの「不協和によるパースペクティブ」概念、ミードの自己論、ホワイトヘッドの実在論などをつきあわせながら理論的整理を行った前年度までの成果を踏まえ、調査研究としてそれを展開しようとした。具体的には、「間」の問題を動的関係のなかでの個の存在感=触覚的な手応えの問題として規定し、それを得ようとする若者の生の実感=柔軟さと頑なさの弁証関係の問題として仮説化し、事例調査を行った。とりわけ、若者のワーカーホリク論を展開した阿部真大が北村文と著した『合コンの社会学』における「少しだけずるく生きること」という文言に注目し、純粋頑なに理想を追い求めること、ずるく柔軟に生きること、というふうに表現される生のあり方を数例調査した。事例的に明らかにしたのは次のことである。エスニックマイナリティ、障害といったスティグマを持つ人々のなかに、理想と「メシを食うこと」のおりあいをつけながら生きていっている人がいること。音楽という夢追い的な生を生きようとしている若者のなかに、「少しだけずるく生きている人」=「楽器の職人」として生活を成り立たせながら音楽活動をしている人、音楽活動と他の生活のおりあいをつけながらマルチに活動している人がいること、などを明らかにした。
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