本研究の課題は、産業化による都市化や人口転換(少子高齢化)、家族の変化(核家族化、家族の個人化)にともなって、死者儀礼といった精神文化がどのように変化したかを捉えることである。 なかでも単身者や子どものいない夫婦のような担い手を持たない人々の増加による、死者儀礼の家族外部化(社会化)の実態を分析し、日本の死者儀礼の社会化に寄与する基礎的研究を行うことを目的としている。そのさい日本との比較を行うために、早期に産業化を経験したスウェーデンの、家族に依らない葬儀・墓システムと、日本より後に産業化を経験するがアジア圏で急激な少子高齢化が進む韓国における死者儀礼の把握を行った。 19年度は、日本と韓国を中心に調査を実施した。<日本>20世紀末に登場した継承を前提としない自然志向の墓地「樹木葬」の実態を分析した。筆者は東京都の2つの委員会(東京都公園審議会、東京都墓地行政検討委員会)の専門委員に任命され、本研究テーマにおける研究成果を披露した。東京都でも新たな形態の墓地として樹木葬が注目され、審議会の答申に盛り込まれて、筆者の研究が東京都の墓地行政に反映された。〈韓国〉(1)日本と同様に登場した「樹木葬」を比較検討し、自然に親和的な樹木葬を積極的に認めた韓国の法改正についても把握した。(2)またターミナルケア施設(ホスピス病棟・私設「臨終の家」等)や、家族による担い手をもたない人々の看取りや葬儀システム、さらにはソウル市立霊園における家族のいない単身者の納骨システムなど、単身高齢者の死後のケアシステム、死者儀礼の家族外部化(社会化)についての研究を行った。
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