本年度は、事例研究対象である岩手県八幡平市旧安代町地域に2回(06年8月、07年3月)、熊本県あさぎり町旧須恵村地域・人吉市に2回(06年7月、07年2月)の現地調査を行った。現地では役場各担当課、とくに市町村合併後の住民組織再編を担当する課、および新市町における産業(とくに農業)振興を担当する課に詳細な聞き取り調査を行った。また、地域住民のうち地域活性化、とくに産業振興に貢献している方々に、家族の生活史を含めた詳細な聞き取り調査を行った。これらの調査には大学院生(博士後期課程)3名が同行し、調査の補助および資料収集にあたり、また数回研究会を行って資料・情報について検討・分析した。さらに、両地域と比較対照するため、岩手県葛巻町(67年3月)、宮崎県都城市(07年2月)にも足を延ばして、資料等を収集した。 これに加えて、中山間地域問題に限らず、地域行財政、市町村合併、地域産業振興等に関する文献を購入し、研究・検討した。 本年度に得られた知見は次の通りである。すなわち、合併後の新自治体では行財政上中央集権化がほぼ必至であるが、それと広域にわたる中山間地域の住民生活を持続させることとの両立が難しくなっている。この問題が、自治体支所の運営、行政区の再編、新しい住民リーダーの発掘といった課題に集約的に表れており、まだその妙手は見出されていない。また、現在の中高年の住民リーダー層は自治体行政を巻き込んで地域を活性化する能力と技術を十分に培ってきているが、後継する若年層や子育て期家族が激減しているため、そうした能力や技術の継承はまったく楽観できない。その意味で「中山間地域の持続的社会形成」については、自治体職員を含むより広域の人材・社会的資源が外挿的に動員される必要がある。
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