現代日本の地域社会の持続的発展を考える上では、中山間地域農村の現状と課題の把握が欠かせない。研究代表者は2年間にわたり、岩手県八幡平市、同葛巻町、同盛岡市、同花巻市、鳥取県日南町、同日野町、同米子市、熊本県人吉市、同あさぎり町、同湯前町、宮崎県綾町、同都城市などを対象に、研究課題に関する地域社会調査を実施した。具体的には、関係する役場、地方議会等公共機関に対する聞き取り調査と、地域実践に関わる住民団体のリーダーに対する聞き取り調査、さらに地域住民の個人生活史に関する聞き取り調査である。その結果、中山間地域農村においては、広域合併後の自治体の範囲、およびその域内の各小規模自治区域の両方における集合的アイデンティティ形成に関わる住民本位の実践が非常に重要であること、また地域担当職員制度など、それを人的、税的に支援するための自治体の専門機構の構築が急がれること、住民の実践の可能性を推量する上では、彼ら一人ひとりの個人生活史に裏打ちされた合理的判断や個人主義的生活様式に注目すべきであること、集合的アイデンティティの形成については、歴史や民俗、自然環境に加えて、住民自身の生活や生業の見直しを通して、彼ら自身の誇りを回復するように構築されるのが望ましいこと。中山間地域農村をいくつか抱える広域圏の社会的交流の結節としての地方都市の再生が農村にとっても地方都市自身にとっても重要であること、リゾート開発や都市の消費市場偏重ではない、農業を中心としたスローな産業振興が、農村自身だけでなく、それを流通させ、観光基盤とする地方都市にとっても重要であることなどの知見が得られた。今後はリーダー層の地域実践を支える、地域住民総体の社会意識の構造と動態を計量社会学的に調査することと、現代日本の地域政策、農業政策の政策過程論的解明を試みたい。
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