今年度は、夏にベルリンの州立図書館に赴き、国籍法関係の文献を収集した。1999年に改正される以前のドイツ国籍法は、1913年の帝国国籍法であった。今年度は、この帝国国籍法の歴史的経緯を中心に検討した。特に、第二次大戦後に建国されたドイツ連邦共和国において、この帝国国籍法をいかにして継承されたのかを調べた。 そこで問題になることの一つが、戦争直後における「被追放者」の受け入れである。連邦共和国は、喪失した東方領土からの被追放者(彼らのほとんどがドイツ国籍をすでに持っている)のみならず、ドイツ国籍を持たない民族的ドイツ人をも、「被追放者」として受け入れ、無条件でドイツ国籍を付与した。この国籍政策は、戦後のアウスジードラー政策へとっながっていくことになる。今年度は、この連邦共和国に特異な国籍政策について集中的に検討した。そして、このアウスジードラー政策が、1990年の統一以後どのように変化し、「収束」に向かっていったのかを検討した。アウスジードラー政策の収束は、一方で「エスノ文化的」なドイツのナショナル・アイデンティティの根本的変容(それは1990年の国籍法改正の背後にあると思われるのだが)と連動している。その半面で連邦共和国は、東欧の在外ドイツ人マイノリティに対する保護政策は続けており、「エスノ文化的」なドイツの民族政策それ自体が収束したと考えるのは総計である。この研究成果は、今年(2007年)前半には論文として発表する予定である。 今年度発表した論文(下記)は、国家の制度と機能に関する理論枠組みの予備的考察である。国籍法は国家における国民包摂の方法の一つである。今後この論文で明らかにした国家の制度と機能を前提にしつっ、国籍法の改正のもつ意味について検討していく予定である。
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