(1)本年度は、研究課題に則して、規制緩和・経営合理化による非正規社員の増加に対して、労使が顕著な成果を収めた事例として、広島電鉄会社における「全契約社員の正社員化」の事例を取り上げた。 (2)同社では2009年の春闘において、「全契約社員の正社員化」について労使合意に達し、同年6月1日、労使協定書が締結された。この事例は、全国で初めての成果であリマスコミによる40本を越える報道が見られ、「広電現象」と呼ばれる。 (3)本研究では、このような成果は、どのような経過を経て実現したのか、その内容はどのようなものかについて、調査研究を行った。 (4)その結果、次の諸点が明らかになった。 (1)同社では90年代以降、迫り来る交通事業の規制緩和・市場競争に対処するために、徹底的な経営合理化(人件費削減)が行われてきた。契約社員の採用はその一環であった(2001年)。その後、契約社員の人数・割合は増加の一途にあった。 (2)この事態に対して、同社の労働組合は「全契約社員の正社員化」の実現を目指した。その結果、ユニオンショップ制による組合員化、春闘における賃上げ、採用後3年を経た契約社員の正社員化などの成果をあげた。そして、ついに「全契約社員の正社員化を目指す」とする労使協定の締結にこぎ着けた(2006年)。 (3)以後、この労使協定に基づいて、新たな賃金体系を創出するための労使交渉が行われてきた。労働組合は自ら「賃金総額を増加させない」ことを前提とする賃金体系案を提案した。そのことは、正社員が減額となることを甘受して、全契約社員の正社員化を実現することを意味していた。このことが全国的に大変注目を集めた。 (5)結果として、「全契約社員の正社員化」は実現し、新たな「職種別勤続年数別賃金制度」が実施されることになった。 (6)本研究は、以上の諸点を調査研究を通して詳細に実証的に把握した。
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