当該研究テーマ「個別的労使関係の研究-従業員個人と企業間・従業員同士の新たな調整システムの研究-」における本年度の取り組みは、これまでの研究を抜本的に検討し直し、新たな段階へ飛躍的に発展させるための初年度としての位置づけである。具体的には、次の7つの取り組みに集約できる。 1.従業員個人と企業間および従業員同士の調整に影響を与える「規範」についての概念整理および全体構成(構図/全体の関連)の分析。 ここでは、当事者間の具体的トラブルにおいて、どのようなプロセスを経てその調整が進展するのか、およびどのようなメカニズムに従って関係が変容するのか、について、概念整理および全体構成(構図/全体の関連)の分析を行なった。またその結果を踏まえて、調査票の設計を行なった。 2.性質により二分できる「従業員個人と企業間および従業員同士の調整方法」 「従業員個人と企業間および従業員同士の調整」のあり方は、その特性から2つのグループ(「当事者間で交渉の度合いが高い」グループ/研究者・技術者など、と「当事者間であまり交渉の余地がない」グループ/生産オペレーターや一般事務職など)で異なり、当事者間の関係は一律に論じることができないため、それぞれについて分析を開始した。 3.研究者へのヒアリング 交渉のあり方についての検討も含めて、研究者・技術者と企業間の関係を身近に把握するために、東レリサーチセンターにヒアリングを行なった。ヒアリング内容は、ここ20年間の東レの人事管理の変遷と東レリサーチセンターの現状、同社の現在の研究者・技術者の人事管理上の問題点と東レとの比較、シリコンバレーの外国人研究者の特徴・動向および個別的管理と業務(研究)との関係などであった。研究者・技術者と企業との関係の実態を、社内制度を通して把握することができた。 4.「従業員個人と企業間・従業員同士の調整」に関わる社会制度についての分析 「従業員個人と企業間・従業員同士」の関係は、単に当事者間での取り組みのみで調整されるのではなく、当事者がどのような社会制度を利用して調整をするのか、あるいは利用しなくとも、どのような社会制度と深く関わって調整が進むのか、により調整内容は大きく影響を受ける。従って、そうした社会制度についての分析を行なった。 5.「従業員個人と企業間・従業員同士の調整」の推進組織、設立の準備 「従業員個人と企業間・従業員同士の調整」を効果的に実践するには、現在進めている当該研究成果を踏まえて応用実践することが必要であり、自らその実践を行うべく、実践組織体の設立準備を開始した。 6.海外(オーストラリア)との比較 本年度は、特に個別的労使関係が進展してきたオーストラリアの状況を調査した。オーストラリアでは、雇用関係ルール・システムをここ20年で大きく変更させ、いまなおwork choicesの名の下、変革が推進されているが、新たな問題も起きている。このケーススタディを通して、研究者・技術者等と企業間の交渉制度整備の研究や両者間に適用される個別的な雇用関係制度について研究を行っている。 7.質問紙票の設計 上述の取り組みおよび過去の成果を踏まえ、新たな視点から「従業員個人と企業間・従業員同士の調整」について分析ができるように、質問紙票の設計を行なった。
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