Iターン移住を構成する社会学的要件-(1)係累のない土地への、(2)自発的な、(3)地方の小集落への移住-のうち、本年度からは(1)と(2)の要件に焦点を当てて研究を開始した。具体的には、沖縄県名護市・国頭郡の各町村への移住者を対象に、8世帯にインタビューを行った。内容としては「沖縄」という土地が意識のなかにどのように浮上したか、そのときの心的風景はどのようなものであったか、移住や居住を開始してからどのようなネットワークに身を置いていた(いる)かなどを中心に、一人平均約3時間の聴き取りを行った。合わせて、移住者の心象を形成した風景を写真撮影し、インタビューで語られた内容との連関性を考察するための材料とした。 今年度はまだ暫定的な結論しか得ることができなかったが、今日観光ばかりでなく移住のブームを迎えている沖縄にあっては、旧来語られてきたような「田舎のゲマインシャフト的な共同体」への憧れという伝統的な‘田舎'言説は次第に希薄化しているといってよいだろう。この点は、80年代以降のIターン書籍や雑誌が‘田舎'というキーワードで語られるのに対し、ここ数年で出版される沖縄関連の書籍・雑誌記事があくまで‘沖縄'移住、‘沖縄'暮らしである点からも十分に示唆されている。 すなわち、今日の移住者、特に沖縄移住者においては旧来型の共同性志向は希薄であり、「初めに共同性ありき」という志向とは言い難いものがある。しかし、その分地域選択・居住地選択における自発性の度合いは高く、その時自発的選択ゆえ、かえって地域に対するまなざしは強いものがある。インタビューでも随所に語られたのは地域への熱い思い入れであった。 したがって、共同性への志向が希薄だからといって地域への関与の度合いが低いとは必ずしもいえないこと、土地への愛着と共同性志向とは必ずしも連関があるといえないということなのである。
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