研究概要 |
最終年度にあたる本年度は,研究計画で唱いながら,十分にとりくめてこなかった諸課題に取り組んだ。まず,基礎研究として,討議民主主義論に大きな影響をあたえたユルゲン・ハーバーマスの「コミュニケーション的展開」の過程を1960年代のかれの研究にさかのぼって検討した。かれは1960年代,実証主義的社会理論が,認識主体の関与抜きに対象を認識できるとする客観主義に帰着することを批判し,対象の認識が同時に認識主体の自己省察につながる相互主観的な解釈学の方法を探求した。1973年に刊行された『晩期資本主義における正統化の問題』の頃から,かれは,生活世界とシステムという,二元構造で社会をとらえるようになる。ハーバーマスは,生活世界に立脚して間主体的に社会的現実を構築する理想的コミュニケーション状況を,討議理論のレベルで追求した『コミュニケーション的行為の理論』を発表後,1962年の『公共性の構造転換』に立ち戻り,1992年の『事実性と妥当性』では,社会理論のレベルで公共圏と討議的政治の問題を論じるようになった。また,討議民主主義の制度デザインと実践の研究の一環として,合衆国における討議民主主義運動の実態を,Gastil,John&Peter Levine編のThe Deliberative Democracy Handbookを参考に,国民的イシュー・フォーラム(National Issue Forum),学習サークル資源センター(Study CirclesResourcre Center),市民陪審(Citizens Juries)を実施するジェファソン・センター(JeffersonCenter),アメリカ・スピークス(Americaspeaks)や,公共討議促進のためのウェブ・サイト,e-thePeopleなど,公共討議の推進を目標とする非営利組織の歴史と現状について,それぞれの団体の刊行物やホームページを通じて資料を収集し,これらの組織が発展した時期に併行して発展したコミュニタリアニズムの思想との接点を検討した(この研究は,現在作成中の科研費研究の報告書に収録している)。
|