2年計画の初年度の平成18年度は、(1)黒人系の3大学(クラーク・アトランタ大学、フィスク大学、ハワード大学)を訪問し、各大学でのソーシャルワーク教育の歴史を、第一次資料をもとに調査するとともに、(2)書籍や論文の収集を行い、アメリカのソーシャルワーク教育や20世紀初頭の黒人が置かれた社会的状況についての理解を深めた。また、(3)黒人ソーシャルワークを研究するアメリカ人学者たちとの交流を持ち、意見交換を行った。 特に大きな成果は、黒人系大学での文書館や図書館が保有する第一次資料によって、社会事業学校のカリキュラム、教授陣、実習先、就職先等の実態が明らかになったこと、また書簡等を通して、各大学でのソーシャルワーク教育の中心人物の役割、教授陣の相互関連等も明らかになったことである。例えば、フィスク大学では、ニューヨークのコロンビア大学社会事業学校出身のジョージ・ヘインズによって1910年代からソーシャルワーク教育が開始されたが、ヘインズの離職により職業訓練的教育は、社会調査を中心とした社会学の研究教育に発展的解消した。これに対して、1920年代に開校したアトランタ大社会事業学校は、現在まで継続的に黒人ソーシャルワーカー養成に努めている。しかし革新的教育を実施しようとした最初の校長フレイジャーは、大学を追われ、やがて大恐慌後の1930年代にハワード大学に理想の社会事業学校を設立しようと努力することとなった。以上のような黒人系大学のソーシャルワーク教育の変遷が明らかになったのである。 それらの事実発掘とともに、アトランタ大学やハワード大学の社会事業学校長(学部長クラス)へのインタビューや、ノースキャロライナ大学やデンバー大学のアメリカ人研究者との意見交換や資料交換を通して、黒人ソーシャルワーク教育について、多面的解釈ができたことも大きな成果であった。
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