平成19年度の研究は、白人系大学の代表的大学のコロンビア大学、シカゴ大学で第一次資料をもとに、ソーシャルワーク教育の研究を行った。また、世界的に有名なミネソタ大学社会福祉史文書館において、アメリカ社会事業学校協会の理事会議事録を閲覧し、協会認定の標準カリキュラム、協会加入基準、認証評価の発展過程について実証研究を行った。 特に大きな成果は、(1)ソーシャルワーク教育の草分けである二大学の社会事業学校カリキュラムや学生名簿、卒業生の就職先等の記録を入手したこと、(2)社会事業学校協会理事会資料によって、黒人系大学にて入手した資料の裏付けがとれたこと、(3)草創期の社会事業教育や現場との交流の様子が明らかになったことである。 残念ながら、コロンビア大学もシカゴ大学も、人種別に統計をとっていなかったため、黒人学生を特定することができなかった。従って黒人系大学と白人系大学では扱われ方が異なっていたのかを確かめることができなかった。 2年間の本研究の結論は、以下の通りである。 大学の公式資料からは、ソーシャルワーク教育における人種差別を確かめることはできなかった。しかし専門家に対して行ったインタビューと、文書館に保存されていたオーラル・ヒストリーの記録から、黒人学生は白人系大学において実習先の選択、寮や仕事などの学生生活の面において差別待遇を受けていたことが明らかになった。また、アメリカ社会事業学校協会も専門職団体も、人種差別に積極的ではなかった。そのため社会事業学校のカリキュラムにおいても、人種問題オリエンテーションは貧弱で、20世紀初等の主要問題である移民問題の解決のため、移民の文化や公衆衛生の概念普及、労働問題などに力が注がれていたことがわかった。
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