熊本市における脳卒中と大腿骨骨折の2つの地域医療連携ネットワークの事例研究をおこなった。この2つの疾患は高齢者に多く、疾患-リハビリ-在宅ケアの切れ目ないケアを必要とする。各地域で有効的な治療-リハビリ-在宅ケアのネットワークが模索されている中で、熊本市の実践は各地のモデルになる得る取り組みとして注目されている。熊本の事例を研究することは、わが国の高齢社会が解決しなければならない、医療と介護の供給体制に関する諸課題を明らかにする意義がある。本研究では、これら2つのネットワークのメンバーにヒアリングを重ねることによって、ネットワークの形成と維持の要件を探り出した。 2つのネットワークはそれぞれの疾患の性質の違いや、それと関連する地域の医療資源や介護資源の違いと相互かかわって、それぞれ別の形のネットワークを形成している。他方で、両者に共通するネットワーク上の特性も見られた。相違点は、脳卒中を扱う急性期病院は少数であるため、ネットワークは広域で大規模な少数のネットワークになるのに対して、大腿骨骨折を扱う急性期病院は多く存在するために、ネットワークも比較的狭い地域で小さなネットワークが数多く存在することがわかった。また、治療・リハビリの意思決定については、脳卒中ではそれぞれの機関の裁量に任される傾向があるのに対して、大腿骨では、統一的な意思決定がなされる傾向にある。これも、疾患の違いとネットワークの大きさの違いに由来するものであると推測される。他方、両者の共通点は、治療-リハビリ-介護の間にあった「構造的隙間」を認識し、それぞれのクラスターをつなぐ「弱い紐帯」の力を活用したこと、また、各メンバーの一定の能力の高さの裏付けのもとに成り立っていると推測される。
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