2006年度に行った強度の行動障害を持つ障害者家族への聞き取り調査のM-GTA(木下、2003)による分析を継続した。分析テーマは「強度の行動障害を持つ障害者家族が、著しい困難にあっても『家族』であることを投げ出さないで、『平常心』で日常生活を過ごすことができるようになるプロセス」であり、結果として「普通の日常生活を営むに至るプロセス」と「支える信念化された原動力」というコア概念を抽出した。障害者家族が困難な日常を普通の生活として送る過程は、「障害の受容」の過程とも見えるが、不安や見果てぬ夢と表裏一体であり、家族周期や本人の状態などによって随時変化し、終わりはない。家族はまずは「支える信念化された原動力」によって、その困難な状態を考える余地もなく受け止め、対処する。次第に家族がそれぞれの役割を「普通」にこなし、本人を巡る問題や現象、関係性と「適当」な距離がとれるようになり、「普通」の日常生活を送るようになるというものである。 本分析結果を主として、ベテラン職員のFGI(2006)分析結果とシステミックな家族療法、解決志向型ケースワーク、ナラティヴ・アプローチ等における家族への働きかけの方法論を参考にして、本研究の目標である「家族レジリエンス促進的会話プログラム」試行版を開発した。本プログラムは、MD&D(修正デザイン・アンド・ディベロップメント)(芝野、2002)の「問題の把握と分析」第1段階と「たたき台のデザイン」第2段階に相当し、今後は、第3段階の「試行と改良」を目指して社会福祉現場に試行を依頼し、フィードバックにより改良を重ねる予定である。 また、中途障害者家族の系時的聞き取り調査の3回目を行い、家族の適度な距離と力関係の柔軟な変化に注目した。さらに調査自体が家族の変化の「儀式」として機能しているのではないかという仮説を持ち、その検証を進めている。
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