研究概要 |
相互協調的自己観を持つものが集団を一次的ユニットとしてとらえるならば,相互独立的自己観を持つものよりも,集団実体性を知覚するための条件が厳しく,したがって集団実体性知覚の閾値が,より高いであろう。この傾向は,少数者集団に対して,より強固に見られると考えられる。このことが,日本国内でも,また日米間の比較においても成立すると,集団心論争が文化的背景の相違に基づく可能性を示唆しうる。 ここでは,パソコンを用いた個別実験および集団実験により,集合運動と個体運動を提示したときの反応時間を測定した。 集団を一次的ユニットと考える日本人は集団知覚の閾値が低く,集団内の個体に注目させる場合でも他の個体との関係が判断に干渉した。このことは,集団注目と個人注目における注意の拮抗であろうと考えられるので,ストループ課題を用いた。先行研究でも示唆されたように,魚を用いてさえ日本人は集団性を知覚するという知見は,日本人がもつ,集団を一次的ユニットとしてとらえる意味体系の投影であると考えられよう。 そこで,人間,魚,箱のCGを使って,「集団」内の他個体と同様の行動をする個体,異なった行動をする個体に注目させると,統制群(個体だけ提示する条件)に比べて前者(判断対象となる個体が他個体と同様の行動をする「同質条件」)は判断が促進され,後者(判断対象となる個体が他個体と異なった行動をする「異質条件」)は判断が干渉されるであろうと予測する。したがって,判断の反応時間は,「同質条件」が最も短く,ついで統制群,「異質条件」の順に反応時間が長くなった。さらに,この傾向は,同じ日本人であっても,集団を一次的ユニットとしてとらえる傾向が相対的に強いと考えられる,集団主義得点が高い個人の方が,個人主義得点の高い個人においてよりも,強く見られた。
|