本研究は、分有型リーダーシップ(shared leadership)をチームに導入することが、チーム・コンピテンシーの強化・育成にいかなる効果をもたらすのか、社会心理学と組織科学の観点から明らかにすることを目的としていた。2年計画の最終年度の研究は以下の通り取り組んだ。 前年度のアクション・リサーチを継続して、電力発電の運転チームを対象にした危機対応場面におけるチームワーク訓練の前後で、チーム状況にいかなる変化が生じるか検討を行った。併せて、チームワーク行動の測定およびチームワークの心理的側面の測定のさらなる精緻化を進めた。チームワーク訓練の効果は、心理面では即効性があるものの、減衰も早く、訓練後の日常の業務遂行の中での効果的なチームワーク・トレーニングのあり方を検討する必要性が明確になった。 この課題をふまえ、看護集団を対象に、分有型リーダーシップの導入を実践し、その効果を測定する現場実験を行った。従属変数として、チームワーク要素(チーム指向性、チーム・リーダーシップ、モニタリング、フィードバック、支援、相互調整)および共有メンタルモデル、チーム同一視、職務満足感、職務ストレス等を測定し、分有型リーダーシップの効果を導入前から6ケ月に渡って時系列的に検討した。その結果、チームワーク要素の中のチーム指向性、そして職務満足感、職務ストレスにおいてポジティブな変化が確認される一方、その他のチームワーク行動や共有メンタルモデルにおいては明確な変化は確認されなかった。 分有型リーダーシップの効果は、チームワークの心理的側面ではポジティブな効果をもつものの、チームワーク行動、そしてチーム・コンピテンシーの強化に関しては十分とは言えず、他の手法も加えた多重的なチーム・マネジメントの工夫が必要であると考えられた。その方法論に関して議論し、具体的提言を行った。
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