本研究の目的は、誤帰属によって社会的判断にゆがみが生じる条件とその範囲に関する知見を得ることである。本年度は、まず実験室実験と質問紙研究の2種類を行ってデータを収集した。 研究1では、刺激の反復呈示によって生じる単純接触効果を取り上げた。予備調査で比較的中性的な評定を得た抽象画20枚を刺激として選定し、接触セッションで一方の刺激系列(10個から成る)を8回、他方の刺激系列を2回呈示した。その後、両系列から1枚ずつの刺激を選んで対にして呈示し、実験1では通常の単純接触実験と同様に、どちらがより好きかという選好判断を求めた。実験2では、同じ手続きで反復呈示を行った後、どちらがよりやわらかい印象であるかの判断を求めた。これは、単純接触効果が通常の選好判断だけでなく、他の種類の判断にも適用可能か否かを検討するために行ったものであるが、刺激の物理的特性を統制することが困難であったためもあって、明確な結果を得ることができなかった。今後、より厳密な実験的統制を行って、誤帰属が影響を及ぼす社会的判断の種類と範囲に関するデータを収集する予定である。 誤帰属の現象は、真の原因と当事者が原因と考えるもののずれを反映しているものと言うことができる。従って、一般人がさまざまな事象や結果について、どのような因果的説明を行うのかという直観的因果理論の性質を知ることが重要になる。研究2では、質問紙法を用いて、一般人が日常生活で遭遇する諸事象に対して、どのような要因を原因と考えるかに関するデータを収集した。結果は現在分析中であるが、現実にはさまざまな原因が作用すると考えられる事象に対して、回答者が挙げた原因は比較的少数に集中しており、特定の直観的因果理論が多くの人々に共有されていることが推察される。
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