本研究の目的は、説得場面において、受け手に提示する情報の提示順序の効果を明らかにすることであった。説得テーマとして大学における卒業試験の導入、寄付・募金、炭素相殺(carbon offset)を取り上げた。卒業試験は、Petty & Cacioppo(1985)の精査可能性モデル関連の研究でよく用いられるテーマである。実験参加者となる大学生にとってコストが高く、基本的に賛成しかねる内容である。残り2つのテーマは、向社会的な内容である。また、本研究では、情報の提示順序だけでなく、実験参加者の認知欲求も測定した。認知欲求はCacioppo & Petty(1982)が明らかにした個人特性であり、ものごとをよく考えることを志向する程度を表している。高認知欲求者は、低認知欲求者よりも説得メッセージを理解し、それについてよく考えて判断結果を導き出そうとする傾向が強い。そのために、説得メッセージにおいて初めの方に配置された情報からよく処理しようとし、相対的に初頭効果が見出されやすいと予測される。 本研究では、この仮説を明らかにするために、2つの質問紙実験、1つの実験室実験を行った。卒業試験に関して、試験の短所から提示するよりも長所から提示した方が、卒業試験に賛成する傾向が認められた(p<.10)。また、寄付・募金については、低認知欲求者の場合、順序効果は認められないが、高認知欲求者の場合は長所から提示した方が応諾されやすいという傾向が認められた(p<.10)。この傾向は、寄付金額に関して5%水準で有意な結果が認められ、仮説を支持する結果である。しかし、炭素相殺については、短所から提示した方が炭素相殺の購入意図が高く、説得テーマによって順序効果の働き方の異なることが示唆された。その背景にどのような要因が存在するのかを今後明らかにしていく必要がある。
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