社会心理学における順序効果は、印象形成、意思決定、質問紙調査、そして説得の領域で研究されてきている。本研究の目的は、その中でも説得情報(論拠)の提示順序が受け手の反応(賛成、反対)に及ぼす効果を明らかにすることであった。寄付・募金、卒業認定試験、裁判員制度を説得テーマに設定して、質問紙実験、Inquisitという心理学実験ソフトを用いたパソコン実験を行った。 その結果、(a)説得情報のチャンキング(主張点とその反論とを明確に区分して提示すること)にかかわらず、ポジティブ情報(長所)から先に提示した場合、高認知欲求群(ものごとについてよく考える傾向の個人)の方が低認知欲求群よりも寄付・募金の意図、卒業試験への賛成度が高いこと、(b)寄付・募金の場合よりも卒業試験導入の場合に、ポジティブ情報から先に提示した方が説得メッセージへの賛成度の高いこと、また、(c)低自我関与度群の方が高自我関与度群よりもポジティブ情報から先に提示した方が卒業試験への賛成度の高いことが見出された。 パソコン実験においては、寄付・募金、裁判員制度を説得テーマとしたが、いずれの実験においても順序効果に関わる主効果、交互作用効果は認められなかった。質問紙実験の手続きとは異なり、説得メッセージの提示後に、説得メッセージ呈示中の思考をパソコンに入力させたが、そのことが順序効果の消失をもたらしたと考えられた。 結論として、説得情報の提示順序効果はあまり頑健な現象ではないようである。ただし、本研究における諸実験の結果を見ると、ポジティブ情報から先に提示する方がネガティブ情報から先に提示するよりも、受け手の賛同を引き出しやすいようである。また、高認知欲求者は、低認知欲求者に比べて、本研究で用いたような説得メッセージを提示された場合に賛同する傾向のあることが見出された。
|