研究概要 |
研究代表者である高尾は,医療現場に設置された投書箱に投函された患者およびその関係者の医療従事者および施設に対する苦情内容を分析した.中国地方のある総合病院の協力のもと,データを分析した.その結果,医療措置の結果もさることながら,それ以上に医療従事者の些細な言動に対する苦情と施設面に対する苦情内容が多数を占めていることが確認された.この結果は,医療措置の結果そのものよりも,患者およびその家族は結果に至るプロセスを重視していることを示唆している.本研究結果に基づいて,今後は手続き的公正知覚に焦点をあて,説明と合意のあり方を探ってゆく予定である. 研究分担者の水子は,患者が医療従事者との間に構築する信頼の構造および発現機序を解明するため,まず信頼に関連する文献を渉猟した.その結果,患者の信頼は主に患者が医療提供者に対して抱く期待(予期)および患者自身が不確実な事態を自発的に受け入れる態度によって構成されている可能性が示唆された.ただし,治療関係という特殊な対人関係に基づく信頼を十分にとらえきれているのか検討の余地が残された.この点について,患者およびその関係者との面接などを通じて,重点的に検討を加える予定である. ところで,患者およびその関係者が納得できる医療福祉場面を提供するためには,そもそも医療や福祉の現場において安全と安心が保証されなければならない.研究分担者である金光は,リスクマネジメントの立場から医療現場におけるインシデント・レポートの重要性について資料分析を行ってきた,その結果,いずれにおいても重大な事故の背景に,1:29:300というインシデント割合が存在することを提唱したハインリッヒの法則があてはまることを示した.今後は,医療現場におけるインシデント・レポートをもとに,本プロジェクトの患者及び関係者が納得できる説明方法との関連性を検討する予定である.
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