研究概要 |
今年度は、患者側の医師による説明に対する評価の分析と,医療従事者が患者対応時に感じる困難さに焦点を当て,研究を進めてきた。 社会心理学領域におけるモデルに基づくと,決定を受ける側(患者側)が主たる決定者(医師)の説明は不十分で,意見にも耳を傾けてくれなかった(手続き的不公正)と知覚するほど医療措置に対して否定的に評価することが予想される。しかし,災害時医療のように,特定の状況下では患者の声に耳を傾けることが困難な場合がある。事実として手続き的に不公正であったとしても,医師にとって統制不可能である場合は,統制可能である場合よりも公正に知覚されることが予想される。大学生を対象に質問紙調査を実施した結果,外科医の説明と傾聴が不十分だったというストーリー上の事実に対し,回答者が外科医にとって統制不可能かつ状況は不安定だったと判断した場合は,統制可能かつ状況が安定していると判断した場合よりも,手続き的に公正と知覚されることが確認された。つまり,医師からの説明に対する患者側の納得度は,患者側が知覚する外科医の行為に対する原因帰属,もしく外科医の道徳性によって左右されることが考えられた。 医療従事者の患者対応に対する意識調査は,ある総合病院の看護師を対象に行った。本調査では,看護師が患者対応において困難に感じた状況(自由記述),看護師が知覚する患者側から信頼を得るうえで必要な要因に関する項目等から構成された質問紙を用いた。KJ法による分析の結果,看護師は患者側に対して論理的に説明を加えようとするが,それに対して患者側が聞く耳を持たない,もしくは医療的措置とは無関係の話題を持ちかけるといった非論理的な対応をする際に困難さを感じるごとが確認された。また,看護師が知覚する患者側から信頼を得るうえで必要な要因は,看護師としての経験年数によって異なることが確認された。
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